0005 鶯鳴
「わたしだってさぁ、できれば鳴きたいよ。ホーホケキョってさ。」
Bar ククルスのカウンターで、強めのお酒を片手に項垂れるのは、バリバリのハイキャリアを突き進むウグイスのホロさん。
ククルスのマスターに鳴き言を打ち明けています。このバーではお馴染みの光景です。
「ちょっとホロちゃん、今日は一段と荒れてるわね。どうしたのよ?」
「マスター聞いてよー、だってわたし頑張ったってチャチャチャチャって感じにしか鳴けないんだもん!ホーホケキョって鳴けるのは男だけなんだもん!ウグイス嬢だなんだちやほやされてもさ、みんなウグイスはホーホケキョって鳴くもんだって思ってるから、結局いつも期待外れみたいな顔されていやなの!」
ホロさんのお酒は止まりません。
「わかるわよホロちゃん。結局男が目立つこと多いわよね。男社会、確かにね。 でもホロちゃん、あんた可愛いじゃない。男はあんたに釘付けよ、ホーホケキョって。」
マスターはホロさんの気持ちを宥めようとします。
「マスター。わかってないよ。わたしは求められたいわけじゃないの!どちらかといえば求めたいし。そういうことじゃなくて、ホーホケキョって鳴けなくたって、堂々とウグイスしていたいの!その邪魔をしないで欲しいの!」
ホロさんは手に持っていたお酒を飲み干して立ち上がり、胸を大きく張って叫びました。その声はバーの外まで響き渡りました。
ホロさんの言葉はバーのお客やバーの前で偶然声が聞こえた人たちの胸に響きました。みんな泣きながらお酒を飲み始めました。「わかる、、、わかるよ、、、おれもさぁ、、、」酔い潰れたホロさんを囲んでみんなで涙の酒盛りが繰り広げられました。
マスターはホロさんの言葉に感心しつつも、酔って大立ち回りを披露しては寝落ちてしまった目の前の若いウグイスに少し怒っていました。
「ホロちゃん、あんたは男だ女だ言う前に、お酒の飲み方覚えなさい。。。あーだこーだ言う前に、堂々とチャチャチャチャしなさい!今のままじゃカッコウ悪いわよ!」
マスターの声が響き渡り、バーには一瞬の静寂が訪れました。そしてそのすぐ後、地響きの様な歓声と万雷の拍手が沸き上がりました。
顔を真っ赤にしながらワタワタするマスターに、ただならぬ雰囲気に思わず起き上がったホロさんが飛びかかる様にハグをします。そしてマスターの耳元で囀ります。
「マスター、いまわたしすっごいホーホケキョ!」