0006 同穴
「あいつ手が2本しかないんだってよ!気持ち悪ぃー!」
森の木々を今日に飛び回り、大地を悠然と走る猿太は、近所に住む蜘蛛蔵からいつも揶揄われていました。
この地域には蜘蛛蔵の様な手足が多い住人が多く、手二本足二本の猿太たちは浮いた存在になりがちでした。
「ほれほれ、柿でもおにぎりでもなんでも投げてきなよ!あんたなんて簡単にチョキチョキしちゃうんだからね!」
「木には登れても墨も吐けないんだろー?サメに襲われたら一体どうすんだろな!?ハハハハハハ!」
蟹江も烏賊住もなんの遠慮もなく罵詈雑言を浴びせかけます。
そんな時でした。
「やめなよ!みっともない。君たちは猿太くんをバカにして楽しんでいるのかもしれないが、傍目から見たら、君たち地震が、私はバカです、とアピールしている様にしか見えないぞ。」
どこからともなくやってきたダチョウの駝子が、猿太をいじめる連中に釘を差しました。誰よりも大きい体であまりも高速であたりを駆け巡る駄子の迫力に、その場の誰も何も言い返すことができません。
「猿太くん、気にしなくていいんだよ。君は君のままでなんの問題もないんだから。一人ひとりの違いを認められないあいつらがバカなだけ。」
駄子は猿太に笑顔で話しかけます。猿太をいじめていた連中は、痛いところを突かれ、ぐうの音も出ません。
「駄子、お前はなんにもわかっていない。猿太、いい気になるなよ。」
捨て台詞を吐いて逃げていく蟹江、烏賊住、蜘蛛蔵たち。駄子は知らん顔で猿太に語り続けます。
「バカは死ななきゃ治らないって本当なのかな。バカに効く薬があればいいのに。ね?」
相手の痛いところを的確に剛力でついていく駄子。言っている内容とは裏腹に、語調も表情もとても優しく、駄子は全力で猿太を守ろうとしたのでした。
猿太は駄子に答えます。
「あいつら手がたくさんあるんだぜ。ほんとに気持ち悪いな。」