0008 洟垂
「ひぃいぃぃ、食べないでくだせぇ、、、」
狭い洞窟の奥深く、豚のトン現はの目の前には、大きなオオカミの狼煩がヨダレをダラダラと垂らして一歩一歩こちらに向かって来ていました。
「はぁはぁ、うまそうだなお前。久々の良い食い物だ。」
狼煩は空腹をのあまり食欲を抑えきれずに、既に追い詰められ逃げ場がないトン現にゆっくり近づきます。
口から溢れ出すヨダレ。それがトン現の体に垂れ始めたとき、狼煩は思わず顔をしかめたのでした。
自分が追い詰めて食べようとしてる相手、もう逃げ場がない相手が、なんと、おそらく自分と同じくらいヨダレを垂らしてこちらを見たのでした。
「はぁはぁ、オイラももう我慢できねぇ。久々に肉を食うぞ!」
トン現はそう言って、狼煩をを凝視します。
すると狼煩の足元はいつのまにか舌に変わり、頭上からは雨のようなネトネトしたものが降ってきたのでした。
「な、なんだ、ここは!?どうなっている!?」
狼煩が狼狽しているうちに、トン現が踊る様に叫びました。
「いっただきまーーーす!」
狼煩は暗い洞窟のどこかへと消えていきました。
トン現もまた、いつのまにかいなくなっていました。
この森では不思議なことがおきます。
例えば、この森では時々、大きな大きな「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ」という音が響き渡ります。
すると、それまでなかったはずの洞窟が、ふと現れるのです。
その洞窟にはいつもよく肥えた豚がいます。それを食べようとして恐ろしい肉食獣がやってきます。
そして肉食獣が入ってしばらくすると、洞窟は溶けるように姿を消すのです。
次にまた大きな「ぐぅぅぅぅぅ」が鳴り響くまで、その洞窟はどこにも見つけられないのです。