0002 素直
まんまるお月さまが淡く煌めく空に浮かぶ夜。
お月さまがあんまりまんまるだから、くじらたちは「ああ、美味しそうだな。とっても美味しそうだな」と月を見上げて思うのでした。
「こんがり焼けたおせんべいみたい」
「ぷっくらふっくらしたどらやきだよ」
「いやいやあればあまーいマドレーヌだね」
くじらたちは空に浮かぶ月が、どれだけ美味しそうなのかと議論を交わすのでした。
「君たち、それはまんまるだから美味しそうってことかい?」
クジラたちに声をかけたのは、群れの仲間ではないイルカでした。
「例えばほら、いつもの付きみたいに欠けていたり、そうだね、真ん中がぽっかり空いていたら、それでもまだ美味しそうって思うのかい?」
クジラたちは考えました。
「そりゃそうだよ。いつもは月をみたって別に美味しそうだなんて思ったことないもの」
クジラたちの答えを聞くと、イルカはニヤッと悪戯な微笑みを口元に浮かべ、空高く飛び上がりました。
イルカは、水飛沫を纏いながら、月の方へと上っていきました。
クジラたちは舞い上がったイルカを見上げ、イルカがちょうどまんまるの月に重なったとき、
「パクッ!」
という音を聞いたのでした。
そして、イルカは再び海への落ちてくると、何やらほっぺたいっぱいになにかを含んでいます!
「もぐもぐもぐもぐ。あー君たちの言うようにたしかに美味しいね!」
クジラたちは最初イルカが何を言っているのかわかりませんでしたが、しばらくして月の真ん中にポッカリと穴が空いていることに気が付いたのでした。
「あはは、どうだい?残念だけど、美味しいところはぼくがもらっちゃったよ」
イルカはそういうとクジラたちに悪い表情を向けました。
クジラたちは驚きのあまり目を丸くし、口は開けっ放しになっていました。
「なんてこった、、、これは、、、これは、、、まるでドーナッツ!!こんな美味しそうな月は初めて見たよ!!」
まん丸くした目はキラキラと輝き、開けっ放しの口からはヨダレがこぼれていました。
イルカは呆れた顔をしてクジラたちから離れてどこかへ行ってしまいました。